今回運良く小説の内容をあまり知らずに読み始められたのはラッキーだった。
小説を読む醍醐味の一つは、作品の空間や世界がどのように成り立ち、読者をどこにどう連れて行ってくれるのだろうかという期待とその実現プロセスにある。そのような点において、本作品は作品に関してできるだけ少ない情報で読み始めて、作品世界を構成する要素を読者は読み進めながら自分で見つけていくことでその世界に入っていき、そして驚きを持ってその世界をくぐり抜けて、読み終わることができる、非常に小説らしい小説である。本書における柴田元幸の解説にある「細部まで抑制が利いていて、入念に構成されていて、かつ我々を仰天させてくれる、きわめて稀有な小説」という小説評に力強く同意できる。
カズオ・イシグロの小説は「日の名残り」に次いで2冊目だが、「日の名残り」とはまったく異なる作品世界であり、本作品におけるその裏切り方はものすごい。一方で「記憶の大切さ」や「運命の残酷さ」といったテーマや、人と人の関係における、ただのナイーブさではない、細やかな機敏の切り取り方は共通していながらも、凡庸なクリシェのかけらも感じさせないのもさらにすごいとしか言いようがない。
内容が内容なので、小説の内容については多くを語らないでおくが、未読の方で小説読みの方はぜひ一度。
p.s.
今年の春の連休は読書週間ということで、積ん読モードのものを読んでいきます。



