出版されてから1年半以上経つので、少し時機を逸した感があるが、起業家のストーリーと発展途上国における携帯電話インフラの普及を描いた面白い本だった。
一つ目のテーマであるグラミンフォン起業のストーリーは、いささか失礼かもしれないが、比較的よくある話。想いを持っている人(グラミンフォンの場合、バングラディシュ出身で、ニューヨークの投資銀行に勤めるイクバル・カディーア Iqbal Quadir)がいて、多少の偶然にも助けられながらさまざまな人と出会い、自らの着想を徐々に形作って、ついに起業していくというもの。
通常の起業ストーリーとすこし違うのは、移動体通信事業、つまり事業展開のためには政府からの免許が必要であり、かつ設備投資が収入より先行するという点と、それが発展途上国での事業であるという点。この2つの点において、よくある起業家のストーリーと趣を異にしている。少なくとも発展途上国での通信事業ベンチャー起業話でこのように面白く読めるものはなかなかないのでは、と思う。しかし一方で、多くの起業のストーリーと同様に、想いの実現に必要なものは、くじけない心、幅広い人脈、そして適切なタイミングで物事が前に進むための運であることが再確認できた。
この本のもう一つのテーマ、発展途上国における携帯電話インフラの普及については、北欧の通信事業者のワールドワイドな展開の一環として読むことができる。グラミンフォンには創業当初も現在も、株主として日本での NTT のような旧国営の通信事業者であるノルウェーの Telenor が深く関わっている。ノルウェーのグラミンフォンへの関与は、この本によると、バングラディシュ鉄道の光ファイバー網敷設にノルウェー開発協力局(NORAD)が関わったことから始まった。そして、グラミンフォンを起業しようと試みているカディーアは次のように認識していた。
携帯電話のオペレーションで最も成功している北欧諸国の電話会社なら、もっとも優れたノウハウを提供でき、大胆なリスクもとれるだろうと、カディーアは考えた。北欧企業は1991年に最初の国際携帯電話システムであるNMT方式(450メガヘルツ)を、1986年に900メガヘルツのサービスを、1992年にGSM方式を共同開発して事業を開始した。1995年にノルウェー人の22%が携帯電話を利用していたが、これは当時世界一の携帯電話普及率だった。今日でも、EUの携帯電話普及率はアメリカよりも高い。北欧企業は自国の人口が相対的に少ないので、新市場に積極的に参入してきた。東欧進出の成功に続いて、北欧人は他の国々でも、脆弱なインフラ、低い購買力、官僚的な政府に ーいずれもバングラディシュにそっくり当てはまるー アメリカ人よりもうまく対処することができた。<中略>
そのうえ、北欧の電話会社はほとんどが国営で、総じてバングラディシュの開発ニーズに敏感だった。これは、ノルウェー開発協力局(NORAD)が早期に光ファイバー投資を決めたことからもわかる。
グラミンフォン立ち上げの経緯は省略するが、その途中で NORAD は重要な役割を果たしている。またグラミンフォンは Telenor が支配権を持つ形で事業が開始され(Telenor 51%、Grameen Telecom 44.5%、Gonofone 4.5%)、現時点でも Telenor のグループ企業である。ヨーロッパ的なグローバル展開といえばフランス、イギリスなどによる旧植民地へのビジネス展開だが、Telenor と Grameen Phone の場合はそうではなく北欧的な政府と民間の連携によるグローバル展開ではないかと思う。この本では Telenor や NORAD の立場から描かれていないので詳細は不明だが、もし描けるのであれば通信事業者のグローバル展開や海外直接投資などのケースとして面白いのではないかと思う(なんとなくそういうケースがどこかに転がっているような気もするが)。
最後に一つ備忘録。グラミンフォンは、マイクロファイナンスのグラミン銀行と密接な関係があり、マイクロファイナンスの話もでてくるのですが、オープンソースのマイクロファイナンスプロジェクトで MIFOS というのがある。へえ。これはおもしろいかも、と。
英治出版
売り上げランキング: 33166
![グラミンフォンという奇跡 「つながり」から始まるグローバル経済の大転換 [DIPシリーズ]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/518bpB4c54L._SL160_.jpg)


昨日、NHKの特番で、密猟者が横行したため、絶滅寸前に追い込まれたゴリラを守るために、ケータイを活用した事例が放送されていました。グラミンフォンも本を読んで知っていましたが、改めてケータイ電話がライフラインとして重要な意味合いを持っていることに感動しました。キャリア主導ではなく、ユーザーが自ら考え、新しい用途を開拓していく、そんな一助を今後もモバイルサービスは担っていければいいですね。
> Routinier さん、
返事おくれました。
この本を読んで思ったのは、先進国だけではなくて地球上のあらゆる地域で、ケータイはライフラインの地位を固定電話に取って替わってしまったのではないかということです。
一方で、ご指摘にあるようなユーザ先導のモバイルサービスですが、そこにいたるように通信インフラが解放されればよいのですが、日本の場合には、ライフラインとしての地位・役割が許さないのではないかと。
単純化しすぎですが、保護主義とリベラリズムのバランスですかね。