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コンテキスト依存のコミュニケーション:「日本語があぶない」

先日のアメリカ出張の際、飛行機の中で丸谷才一さんのエッセイを読みました。成田空港で買い求めたもので、日本語についての文章がいくつかの載っているモノです。

ゴシップ的日本語論 (文春文庫 ま 2-19)
丸谷 才一
文藝春秋 (2007/10)
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いつもの丸谷さんの独特の文体で、日本語についての彼の考え方がつづられています。その中で一番最初に載っている「日本語があぶない」という文章がおもしろい。

「日本語があぶない」によると、日本語の近年の歴史のなかには二度の大きな改造がありました。一つめは明治時代の西欧化と印刷術の普及。二つめは、第二次世界大戦後。言論の自由、徹底した西洋化、テレビやインターネットなどのメディアの普及が要因となって発生した変化。それぞれの段階を経て、いろいろ細かい変化は発生したのだけれど、要約するとこういうこと。

1) 相変わらず西欧の概念を背負った漢語を主に表現している。例えば、「経済」とか「会社」というのは、西洋語の漢語訳である。

2) 欧文脈的な構文の隆盛。欧文の文章構造を借りてつくられた文章が数多く使われてる。

3) 論理とレトリックの変化。漢文的論理の衰退と欧文的論理、レトリックの増加。しかし欧文的論理がどれだけ身についているかは怪しい。

4) みんなよく書き、よくしゃべるようになったけれども、社交性やユーモアなどが言葉の技術に伴っていない。社交性やユーモアが言葉の技術を増やす方向にいってない。偉い人が発する言葉もつまらない。

要するに、今の日本語は和漢洋の三つすべてに通じていなければいなければならないのです。通じていないと、日本語を十分に使いこなせないかもしれないという、かなり混乱した不安定な状況にあると。言語としての骨格としての「和」と、表現と論理としての「漢」、構文と論理・レトリックとしての「洋」、すべてに渡ってそれなりに駆使してはじめてそれなりの言語表現が可能になるというわけ。

そういうなかで、丸谷さんによると言葉が提供するものは、意味と語感、なのだそうです。僕もそう思います。日本語は構文のしばりがゆるいので、できあがる文章が提供する意味と語感を意識しながら書かないと軸がぶれた文章になってしまうことが多い。

そして、いずれの習得(学習)についてもコンテクストが重要な役割を果たすと。言語習得とコンテクストについては、こう書かれています。

 昔の子供は、小さいうちから字面だけのテクストと対面して、テクストを読み取る能力を自分で養つてきた。ところが、今の子供はその訓練を経てゐない。文字を習ふ前から、テレビで、コンテクストがびつしりついてゐるテクストを見てゐるために、テクストとつきあふ能力をかなり弱められてしまつたのではないだらうか。
 文章とは、抽象的な、中立的な読者を想定して書かれるものだし、また、そのやうにして書かなければならない。ところが、テレビ時代にはいつて成長した人々には、テクストがさういふものだといふことを知らない人が多いから、さういつた文章を書きにくくなつた。
 もう一つ、ここでつけ加へなければならないのは、携帯電話の大流行です。すぐに推測できるやうに、携帯電話といふのは、テレビ以上にコンテクストに寄りかかつてゐる表現なんです。テクストなし、コンテクストだけがあると言つてもいいかもしれません。
 従つて、読書の訓練、作文の訓練は、テレビ時代、さらには携帯電話時代になればなるほど重要なんです。ところがその重要性を文部省は知らなかつた。今でも意識してゐない。

これを少し別の視点で読むと、言語をつかったコミュニケーションがテキスト中心型からコンテクスト中心型に重心を移す傾向にある、という風に読めます。コンテクストリッチな環境になりつつあり、その中で育つ人たちは意識してテキストとつきあう能力を高めていかないと、コミュニケーションにおけるコンテクスト依存度が高まるということ。「空気が読める」ことを重要視したり、「キレル」ことが芸として認識されるのは、コンテクスト依存が高まりつつある現れなのでしょう。

また、コンテキスト中心のコミュニケーションを支えるモノとして携帯電話がある、というのはこのテキストによって改めて発見しました。「どうせケータイってコンテクスト中心なら、テクストとつきあう能力の育成なんて不要なのでは?」となるかもしれないですが、人との言語コミュニケーションはケータイやインターネットだけではないですからね。

まとまった感想があるわけでないのですが、最近、ケータイに慣れ親しんで育ってきた世代の言語表現力やコミュニケーション能力に疑問を感じることが何度かあったので、この文章を読んで、何かがすこし腑に落ちました。

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2007年11月24日 13:24に投稿されたエントリーのページです。

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