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雪によってもたらされる狂気と明治の暗さ 『八甲田山死の彷徨』新田次郎

酷寒の八甲田山において無為な雪中行軍を強行させられて 200 名近くの陸軍兵士が亡くなっていくさまがこの小説の一つの軸。基本的にはとても暗いのだが、ノンフィクション的に書かれているために誰かに感情移入することもできない。感情移入が難しいのがいいのか悪いのかわからないけれど、確かに筆力の高さを感じます。

仕事でつきあいのある方から「今読んでいるのですが、面白いですよ」と薦められて買っておいたのを今回の出張に持ってきて、シカゴ行きの機内で読みました。

あらすじは、日露戦争を間近に控えた明治後期のこと。青森と弘前の二つの陸軍聯隊が厳冬期の戦闘のための研究という名目で、厳寒の八甲田山山中において行軍を行うことになる。平民からたたき上げた優秀な神田大尉率いる青森第五聯隊は、準備段階から指導権が錯綜し、実際の雪中行軍では準備不足、上官の出過ぎた指揮権発動、不適切な状況判断に史上稀に見る寒波に襲われたという不運が重なり、210 名中 11 名だけが生き残った。

一方で弘前第三十一聯隊は、この行軍を率いる徳島大尉が指導権を準備段階から確保し、一名の死亡者も出すことなく完了することができた。しかし、皮肉なことに青森第五聯隊の遭難が広く報道されたために、弘前第三十一聯隊の業績は喧伝されることなかった。そして、この行軍に参加した弘前第三十一聯隊の多くは二年後に始まる日露戦争にて戦死または戦傷した。青森と弘前の二つの陸軍聯隊はもちろんのこと、それ以外にもこの行軍に関わって死んでしまった者、生き残った者、それぞれいずれもがその末路は暗く悲しいものであった。

この小説、そういえば、映画化されているんですよね。僕は観ていませんが、公開当時にテレビCMで「天は我らを見放した」というフレーズが連呼されたことは覚えてます。このフレーズは小説の中にも出てきますが、国家の繁栄と引き替えに澱のように少しずつ溜まっていく(説明しにくい)明治という時代の暗さを「天は我らを見放した」というフレーズが現しているような気がしました。

今の時代に置き換えて考えてみると、ここまで決死の覚悟で身を投げ出す刹那感がなく、たとえ国家を背負っている立場を考えてもこのようなフレーズが成立するシーンはほぼ無いように思います。

明治の暗さが数十年後に記されたこの小説に現されているなら、現在の暗さはどういう小説に現れていくのでしょうかね?


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2007年06月18日 14:38に投稿されたエントリーのページです。

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