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「サウスバウンド」奥田英朗

昔、過激派だった変わり者の父・一郎を持つ小学六年生の二郎。彼の視点から描いた、東京・杉並と沖縄・八重山での少し変わった生活(?)を描いた長編小説。登場人物の設定の都合良さは、まぁ、しょうがないとしても(父が過激派の重鎮だったという設定は、ね)、端役とおぼしき登場人物までがとても生き生きしていて、また個々のエピソードと全体のストーリーの絡め方もうまくて、ぐいぐいと読ませる。

二郎の周りにいる変わり者は、父である一郎だけではない。その父と夫婦である母も変わっている。母が、沖縄・西表島への引っ越しを告げた時のことである。

「我が家は、沖縄の西表島に引っ越すことにしました」
桃子が箸を持つ手を止める。二郎は口にご飯をほおばったまま、噛むのをやめた。
「あなたたちにとって、いい人生経験になると思います。大学に行って会社員になるとしたら、多少の不利益は被るかもしれませんが、そんな誰もが歩む人生に、たいした価値があるとは思えないので、東京での生活を終わりにします」
すぐには感想が浮かんでこない。とりあえず口の中の物を飲み込むことにした。
「もちろん、あなたたちは永遠に親のものではないので、自立できると判断した時点で、独り立ちしても構いません。ただ十五歳までは、おとうさんおかあさんと一緒に暮らしましょう。だから、今現在の友達とは一旦お別れです」
その言葉を聞き、淳や向井の顔が浮かんだ。リンゾウも、サッサもハッセも。
「いつ引っ越すの?」二郎が聞いた。
「お店の家具や食器を売りさばき次第、出発します。たぶん、二、三日のうちに。こういうのはだらだらやるものじゃないし」

<中略>

「転校先は、なんて名前の小学校?」
母がテーブルに頬杖をつく。「二郎と桃子は、学校、必要?」軽い調子で聞いた。
二郎は、言葉の意味を量りかねた。父が言うならまだしも、母は普通の大人だと思っていた。
「……必要だけれど」二郎が答える。
「桃子は?」
桃子は黙ったままだ。納豆を御飯に載せ、元気なく口に運んでいる。
「あなたたちが学校で教えられていることって、本当はたいして重要なことじゃないの。勉強にはもちろん、集団生活のルールなんかでも。だって、通学路しか通っちゃいけないなんて、あきらかに意味のない決めごとでしょ。国は国民を、大人は子供を、それぞれ管理したいだけなんだから」
母が、父が言うようなことを口にした。結局、似た者同士だから夫婦になったのだろう。
「学校には今日のうちに連絡しておきます。だから二郎と桃子は、友達にお別れを言っておくように」

母、マジでかっこよすぎる。こんな人がかあさんだったら、絶対に人生楽しいはずだ(または絶対に人生大変なはずだ)。

この小説、かつて男の子だったことがある人なら、汗をがしがしかいて遊び回ってた頃のことを思い出すはず。ぐいぐいと心と身体の両方が成長していく感覚や、初めて人生で出会う何かを前にした時の下腹の奥のうずきとか。その時には、余裕がなくて冷静に感じていられないのだけれど、ある程度年齢を経てはじめて振り返ることができる、そんな記憶。

それから、二郎がなにかを食べるシーン、とても印象的です。ぐいぐいとご飯を詰め込むように食べる姿に、小学六年生の男子の食欲旺盛っぷりが全面にでています。引き込まれるようにすいすいと読み進めていく中で、読者である自分もかつて持っていたこういう無限のような食欲を思いだし、そして、その失われてしまった食欲の喪失感を覚えることで、なんだか、ふと、すこし悲しくなりました。

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コメント (2)

TBありがとうございました.
ココログは重くてなかなかTBできなかったんじゃないかと思うと,非常に恐縮です.(^^;;

さて,私の方には書き忘れていましたが,そうです,この二郎君の食べっぷりは素晴らしい!成長する途中の男の子ってこんな感じなのですね.そういえば,うちは姉妹なのにもかかわらず,母親が「またコメを買いに行かんといかん」とぼやいていたことを思い出しました.

さくらさんは確かにかっこいいです.
でもそうなれない私(現在高1と小6の母)には,眩しすぎて真似できません.

> ととさん、

コメントありがとうございます。

そうだ、さくらさんだ。しばらく前に読んだ本なので、母の名前を忘れてました……

奥田さんの小説は初めて読んだのですが、リズムがよくて楽しく読めました。また、別の小説を読もうとおもうのですが、

> 『空中ブランコ』(半身浴読書~28~)を読んでます.そのときあまり奥行きを感じなくて

なのですよね。むむむ。

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2006年7月 9日 15:42に投稿されたエントリーのページです。

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